一般に自殺等の事故がマンション等の不動産において発生した後は一般人において住み心地が悪くなり(心理的瑕疵と言う)不動産の経済価値が下がることに伴い、売買や賃貸等の場面でこれを説明する義務が発生します。一方で心理的瑕疵は時間と共に風化していくことがほとんであるので、そうするとかかる説明義務はいつまで発生するのかという問題が発生します。以下、類型に分けて説明します。
➀殺人の場合
殺人の場合、社会に与える影響が大きく、人々の印象に強く残りやすいので、過去の裁判においては、既に取り壊し済みの建物内での殺人事件であったにもかかわらず、50年も前の事件についても心理的瑕疵が残存していると判断した例もあります。従って、殺人の場合にはその事件の報道のされ方、残虐性等に応じて数十年心理的瑕疵が残存すると考えておくべきでしょう。
②自殺の場合
(ⅰ)マンションの室内での場合
家族で住むために中古マンションを購入したが、購入後6年前に室内で首吊り自殺があったことを知ったという裁判で、家族が永住する目的でマンションを購入しようとする場合、購入の6年前に首吊り自殺がある場合、通常他の事故のなかった物件と比べて同様に買い受けるということは通常考えられず、説明義務があると判断した。また、本件では一般人においてマンションを家族での永住の場とすることもできず損害賠償でまかなえるものでもないので契約解除も可能であると判断した。
マンションの室内での自殺があった物件の売買の場合、基本的に永住するという目的で買う場合の説明義務は時の経過に関わらず存在すると思っておくべきであろう。
(ⅱ)取り壊し済みの建物の場合
A土地の売買が問題になった裁判で、8年以上前に既に取り壊し済みの共同住宅の一室で焼身自殺があった土地の売買において、焼身自殺後も土地上の共同住宅の他の部屋は住居して継続して使用されていたこと、8年以上経過していること、土地上に焼身自殺の痕跡が一切残っていないこと、共同住宅の一室にすぎないこと等を理由に説明義務があったとは認められなかった。
B土地の売買が問題になった裁判で、土地上の建物における自殺等は本件売買契約締結から20年以上前の出来事であり、問題となる建物も自殺の約一年後に取り壊され、それ以来2〇年以上更地であり、事件を想起させるようなものは本件土地上に存在しなかったという事案であるが、買主が自身の家族の永住の場所とする目的であったこと、所有者の娘が自殺したこと、所有者の内縁の妻が実の息子に殺害されその遺体がバラバラにされて山中などに埋められるという事件も併せて考慮の対象にするならば、20年以上前の事件でもマイホームを建てて永住するには抵抗感を抱かせるものであると判断した。
C土地の売買が問題になった裁判で、アパートが3棟建っていたところ、3年7か月前に、うち1棟の一部屋からタバコの火の不始末により火災が発生しし火元に居住していた1名が焼死したという事案で、本件火災事故は当時の建物のみならず近接した他の建物の一部を焼損するというものであり、近隣住民には事故の記憶がなお残っていること等から未だ説明義務はあるとしたものである。
なお、同様の事案で、17年以上経過したものについては事件が風化しており、説明義務はないとの裁判例がある。
以上より、事故物件であるとして説明義務があるか否かは、経過年数、事故の態様、購入目的、報道の状況等により一概にいえないものであるが、賃貸に比較すると、相当長い年数の経過による事件の風化が必要であるということが言えるであろう。
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