不動産売買等における仲介業者は、規定の重要事項説明書に記載の情報の他に、事故物件であることを知っていた場合には買主に説明する義務が発生するのは一般の感覚からいっても理解できるであろう。では、仲介業者は対象物件についてどこまで調査してどこまで説明しなければならないのであろうか。その責任の範囲をしっかりと理解している仲介業者は少ないのでなからろうか。以下、具体例と共に記す。
➀調査義務・説明義務
過去の裁判で、仲介業者は物件の売主の提供する情報のみに頼ることなく、自ら通常の注意を尽くせば仲介物件の外観から認識することができる範囲で物件の瑕疵の有無を調査する義務があると判断しています。
(ⅰ)自殺等事故物件の場合
当該基準を自殺があった等の事故物件にあてはめてみると、事故物件であることは稀な事態であり、その外観からは全く想像がつかないのであるから、事故物件であることが一般的に疑われるべき事情がない場合には事故物件であるかを調査すべき義務はなく、たとえ隣人に確認すれば容易に事故物件であることを確認できたかもしれないにしても、隣人に特別な事情の有無を尋ねることまでは求められていないといえる。
(ⅱ)火災による焼損があった物件の場合
当該基準を火災があった物件についてあてはめてみると、過去の裁判では、仲介業者が家の中を確認すれば過去に火災があったことがわかる物件について、調査義務を怠った違法があるとしたものがある。火災の場合、外観上それがわかるケースがほとんどであろうから妥当な判断である。
(ⅲ)擁壁に不備があった場合
擁壁の不備はそれが外観上明らかなものとそうではないものに分かれる。
ア がけ条例の適用により予定の木造住居が建てられなかったため説明義務違反として損害賠償を請求したケース
重要事項説明書には「本物件は東京都安全条例(いわゆるがけ条例)第6条の制限を受ける場合がある」との記載があったが、買主ががけ条例は大丈夫かと質問すると仲介業者は「多分大丈夫だろうが正確なところはわからないので、売主に聞いて欲しい」と言ったところ売主は「仮にがけ条例の適用があっても、問題なく対応可能である」と回答したと言う事案。
裁判では「買主は建物の予算に大きな関心があったこと、実際にがけ条例の適用について質問していることから、仲介御者はがけ条例の適用の有無について十分に説明すべき義務を負い、本件で仲介御者のした説明の内容及び程度は、本件土地と隣接地との工高低差に鑑みると本件土地はがけ条例の適用があるものと判断される蓋然性が高いものと認められることに照らすと、がけ増例の適用の有無について十分な説明が尽くされたものとはいえず、かえってあたかもがけ条例の適用の有無が建物の建築費用に全く影響しないとの誤解を生じさせるものであったと言わざるを得ない。また、重要事項説明書や売買契約書にがけ条例の適用の可能性があると記載されている点についても、従前のやり取りを踏まえると、かえって本件土地上に建物を建てる場合に何ら影響を及ぼすことのない事象を記載した定型の不動文字にすぎないとの誤解を生じさせるものであったと言わざるをえないとし、仲介業者には説明義務違反がある」として結果として予算を超えた建築費用、建築遅延により負担した家賃6か月分、慰謝料等を損害として認めた。
イ がけ条例の適用により予算を大幅に上回ることになったことにつき仲介業者の注意義 務違反を認めケース
買主が売主に対して本件土地に盛土をして平坦にし、東側部分に擁壁を築造するとした場合の費用の概算等の提出を求めたところ、仲介業者が参考資料にすぎないとして概算見積書を提出したという事案。
裁判では「仲介業者は本件地の東側部分の利用が大幅に制限されるか、或いは東側境界付近に大規模で多額の費用を要する擁壁築造工事を施工する必要があることについて具体的な説明がなかったこと、及び、盛土をする場合の擁壁築造工事の必要性について具体的な説明をしなかったこと、及び擁壁設計案としては不完全でかつ誤解を与えるような概算見積書を格別の説明を加えることなく交付して、買主をしてかえって本件土地の全体的な利用が可能であるかのように誤解を生じさせた」として損害賠償請求を認めた。
既存の擁壁の合法性等については専門的知識が求められるため、仲介業者の調査説明義務を認めなかった裁判例も多いが、具体的な事案において売主、買主との関係で調査説明義務が認められるケースも多くある為、仲介業者としては、擁壁が必要な土地か、既存の擁壁に検査済み証はあるか等について予め調査しておくべきであろう。
(ⅳ)漏水事故があった場合
裁判では「建物を賃借しようとする者にとって、その建物に漏水事故があったかどうかは重要な事柄であって、これを仲介する業者は、漏水事故のあった物件であることを了知している場合には、一般的にはこれを顧客に告知する義務がある」としています。雨漏り等の場合にも告知義務が発生するものと思われます。
(ⅴ)現地で境界標を確認できない場合
専門家の関与の下、隣地所有者の立ち合いをえて境界標を設置し、確定測量図(隣地所有者の実印があるもの)により境界を明確にすることが望ましい。また、確定測量図ではなく現況測量図により取引をする場合は買主に対して将来境界紛争が生じる可能性があることはもちろん、分筆、合筆、地積更正登記ができなかったり、建物建築に支障が出る可能性があることなどを十分に説明すべきです。